学芸員が普段の仕事の中で感じたことや、日々のこぼれ話、お気に入りの展示物などを紹介します。

新年度の準備をしています

2012.3.29

4代目宗箇松 早いもので3月もおわりが近づいてきました。年度末になり、今年度のまとめと、新年度に向けての準備をしています。
 今年1月から3回シリーズで、広島学セミナー「広島と茶道上田宗箇流」を開催したところ、おかげ様で好評のうちに終わりました。新年度はこれにひき続き、健康増進と地域の歴史の探訪をかねた、広島学セミナー 歴史ハイキング「宗箇山にのぼろう!」を5月19日(土)に計画しており、先日下見の登山をしてきました。
 この宗箇山は、茶道上田流の流祖で広島藩の家老職にあった上田宗箇が三滝山の山頂に赤松を植えたので、この松を宗箇松、この山を宗箇山と呼ぶようになりました。この松は、広島城内外にあった上田家上屋敷や縮景園から見ることのできたそうです。残念ながら宗箇が植えた松は明治のはじめに落雷でなくなってしまいました。その後、紆余曲折あって現在の松は4代目です。
 宗箇山は標高356mで、1時間ほどで登ることのできる山ですので、初心日渉園
者の方や小学生にも向いている山です。頂上からは広島市内が一望できます。景色を見ながら山頂で昼食をしようと思います。途中、広島藩営の薬草園であった日渉園跡、秋の紅葉で有名な三滝寺にも立ち寄る予定です。 詳しいことは、本ホームページ(4月)、「市民と市政」(5月1日号)、「to you」5月号に掲載される予定です。また公民館や図書館などにチラシを置かせていただこうと思います。
 さわやかな初夏の風に吹かれて、広島の歴史にふれるハイキングをしませんか。ご参加をお待ちしています。三滝寺多宝塔

文化財課主任指導主事 河村直明/写真:上…4代目宗箇松 中…市指定史跡 日渉園跡(太鼓橋) 下…県重要文化財 三滝寺多宝塔

やっていることは古いけど・・・

2012.3.6

研修の様子 発掘調査ではそれこそ何千年前のことを調査し、図面や写真などに記録していきます。考古学では最新の科学分析や調査方法を積極的に取り入れていますが、普段の実作業は図面をとるのは手で測り、写真はフィルムカメラを使って撮影するなど、そのほとんどは手作業(アナログ)で行い、いかに正確に美しく記録できるかを目標に学芸員たちは競い合ってきました。ところが、昨今デジタルカメラの普及により各社のフィルムが製造縮小し、測量はレーザー測量、製図をするのも印刷出稿もパソコンからするのが主流となるなど、考古学業界にもデジタル化の波が一気に押し寄せてきました。困ったことに、今まで積み上げてきた技術を先輩から後輩へ伝えていくことはできますが、こうした新しい技術は導入したくても学びに行く場(とくに考古学向けの)がなかなか無いのです。
 こうした現状に立ち向かうため、広島県の埋蔵文化財担当者でデジタル化に関する研究・実習を行う「広島県埋蔵文化財等デジタル化研究会」を発足し、去る3月3日に第1回研究会を開催しました。当日の実習は図面のデジタルトレースを行い、参加者の皆さんも熱心に(いや、必死に)作業されました。「最新技術で昔の事を研究する」なかなか大変なことなのです。
 
文化財課学芸員 桾木敬太/写真:研修の様子「各自パソコンで実習。後は体に叩き込むのみ!」

広島の歴史と文化財の魅力を発信してみませんか?

2012.1.31

「ハニワ作り」の指導 文化財課と、同じ財団に所属する広島城、郷土資料館の3施設では、広島の歴史や文化財をテーマにした様々な事業を実施しています。そして、そこでは、たくさんのボランティアが活躍しています。
 「ひろしま歴史探検隊」の名称で活動しているこのボランティアグループの特徴は、3施設が実施する事業や研修の中から、自分が希望する内容を選択して活動できることです。
 3つの施設は同じ歴史を扱っているとはいえ、専門とする時代や内容が異なります。例えば、文化財課は広島市内の遺跡の発掘調査で見つかった考古資料の紹介チラシへや、土器やハニワ、勾玉など古代のものづくり、火起こしや弓矢と
いった古代生活体験などのメニューを用意して、学校や公民館など、様々なところへ出かけて授業を行っています。他の2施設もそれぞれの特徴を活かした事業を館内外で実施しています。 これらの事業の準備や指導を、職員とともに行っているのがボランティア「ひろしま歴史探検隊」です。
 このたび、活動内容や施設についてより詳しく知っていただくために、説明会を開催します。
  ボランティア活動に興味のある方、歴史が好きな方、ものづくりや人との触れ合いが好きな方など…、ぜひお気軽にご参加ください!

文化財課学芸員 田原みちる/写真:「ハニワ作り」の指導
                           ※詳細はチラシをご覧ください。

広島学セミナー「史跡 原爆ドーム」

2012.1.12

原爆ドーム 原爆ドームといえば、被爆の実相を伝えるものとして様々な面から語られてきています。ただ、建築面から語られることは少ないのではないでしょうか。建築物としての原爆ドームをテーマに講座を実施しようというのが、広島学セミナー「史跡 原爆ドーム」(全3回)です。現在参加者を募集中で、残念ながら2回目・3回目は定員一杯になっているのですが、1月21日(土)の1回目だけは会場が広いこともあり、まだご参加いただけます。(1月12日時点)
 1回目は、建築史・意匠学を研究分野とされている広島大学大学院の杉本俊多教チラシへ授をお迎えし、「広島県産業奨励館の建築意匠について」というテーマで
講座を開催します。杉本先生は、建築という技術を通して広島で平和を考えたい、被爆後の死の風景を理解するには、生きた風景がどのようなものであったかを知るべきだというお考えのもと、広島県産業奨励館の研究を深めておられます。「ヒロシマ」を考える上でも意義深いお話しが聞けると思いますので、参加してみようと思われた方は、平日8時30分~17時までの間にお電話(082-568-6511)でお申込み下さい。

文化財課学芸員 田村規充/写真:原爆ドーム
                      下のチラシをクリックしてください。

伝承のかたち

2012.1.11

講演「異界・妖怪と日本人」 昨年12月10日(土)に、妖怪研究の第一人者である、国際日本文化研究センター教授の小松和彦先生をお招きして、講演会『異界・妖怪と日本人』を開催しました。日本では不安や恐怖、日常を超える出来事などの背景や説明として古くから妖怪が想起され、中世以降は絵巻物などに形あるものとして描かれ、現代に至るまで非常に豊かな大衆文化としてさまざまなかたちで伝承されているという興味深いお話を伺いました。
 講演会の中ではいろいろな妖怪が紹介されたのですが、その中に古い器物が異形に変化した「付喪神(つくもがみ)」という妖怪がありました。文化財課では発掘調講師の小松和彦先生査でみつかったたくさんの考古資料を収蔵保管していますが、
資料の大半は、「付喪神(つくもがみ)」の九十九(つくも)どころではない年月を超えて日の目をみたものです。長い間土の中に埋まっていたので、コンディションのよい資料ばかりではありません。温度や湿度を管理して紫外線や酸素を絶つなどいろいろな養生が必要な資料もたくさんあります。保存の側面だけから考えると、門外不出の資料として環境の整った収蔵庫に納めておくのがよいのかもしれませんが、それでは資料が死蔵になってしまい、「付喪神(つくもがみ)」が夜行するやもしれません。
 埋蔵文化財が皆様の宝物であることを実感していただけるよう、展示などの資料活用の機会を積極的に作っていくことも私たちの仕事です。未来の人々へ伝えるために、資料の保存と活用のバランスをいかにとっていくか・・・私たちの大きな課題です。

文化財課学芸員 荒川美緒/写真:講演会「異界・妖怪と日本人」/講師の小松和彦先生

謎の遺物の正体は?

2011.12.2

陶器と瓦から作られたもの 広島城跡法務総合庁舎地点の武家屋敷跡地で多数見つかっている写真の様な遺物。それは瓦や陶磁器を打ち欠いたり、研磨したりして円板状に整形したもので、大きさは手の平に収まる位です。その用途についてははっきりと分かっていません。砥石の様にものを磨くためのものとか、遊具、呪具などとも想定されています(私は最初にこれを見たとき文鎮代わりかと思いました)。「陶器の転用品」「瓦の転用品」などと呼んでいますが、同様の遺物を「円板状製品」「加工円盤」などと呼ぶ報告書の例もあり、名称もまちまちです。
 数は多いものの、余りにもシンプル過ぎる印象のこの遺物。何となく気に
なっては磁器製のものいたのですが、江戸時代中期の著名な広島藩の学者、香川南浜
(1734~1792)が天明年間(1781~1788)の初め頃に書いたと推測されている「秋長夜話(あきのながよばなし)」(『広島県史 近世資料編Ⅵ』所収)という随筆をたまたま読んでいて、私は「あっ」と注目しました。当時の子供たちの遊戯について記した一節に「…広島の小児の戯にいちきりといふ事あり、瓦石を抛(ナケ)て志(メアテ)に近きを嬴(カチ)とす…」とあったからです。 現代風に言い直すと、「広島の子供達の遊びにいちきりというものがある。瓦石を的の最も近くに投げたものが勝ちとなる」といったところでしょうか。もしや、この遺物の正体は「いちきり」のアイテムだった「瓦石」の類なのでは…。
 もちろん「もしかすると」です。ただ、そんな目で改めてその小さな遺物を手にすると、手近なもので遊具をこしらえ、夢中で遊んでいた子供達の表情や歓声、そして同時に、そんな子供達に向けた高名な学者の愛情を交えた眼差しが想起されます。
 色んな思いを宿してめぐる遺物。皆さんには、これが何に見えますか?

文化財課学芸員 松田雅之/写真:左上は陶器のもの、他は瓦のものです。/磁器のものです。

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