大ケヤキ
このケヤキは、樹高約31mで、地上から7.5mのあたりで2本に分かれ、さらに枝分かれを繰り返しながら20〜30m四方にわたって大きく枝を広げています。その堂々たる体を支えるために根もよく発達しており、がっちりと地面をつかんでいる様子もうかがえます。
もともとケヤキは、本州、四国、九州に広く分布しており、山陽地方では低地から海抜1000mに達する渓谷まで、川筋の平野にごく普通に見られる木でした。しかしその木質が堅く強く、しかも曲げやすく、またひずみや割れも少ないことから、建築や生活用品を作る材として広く用いられ、盛んに伐採されたため、今では大木はほとんど見られなくなりました。
この大ケヤキがある切幡神社では、瀬野川の中流域にあります。境内にはこの木の他にもかなり大きなケヤキが2本生えており、かつてこの瀬野川沿いにもたくさんのケヤキが茂っていただろうということをうかがわせます。
シイ林
切幡神社の裏山の斜面には、美しいシイの自然林が広がっています。主となるシイの他に、アラカシ、サカキ、ウラジロガシ、ヤマザクラなどの高木が勢いよく茂る林の中は、晴天の日でも薄暗く、わずかな木漏れ日が点々と射し込むだけです。また低木層や草本草の植物群もよく発達し、バランスのよい森林を作り上げています。
シイ林は、山陽地方の自然林の最も典型的なもので、昔はかなり広範囲に分布していたと言われます。それらのシイ林は、縄文時代の頃から人々の生活を支える大切な存在でした。たとえばシイの実は、渋味がなく保存もきくので貴重な食糧となっていました。また幹や枝の部分は、薪炭、建築用材、家具、生活用品などの材に使われたほか、樹皮からは漁網用染料やタンニンも採れ、さまざまな形で人々の生活に取り入れられてきたのです。
しかしその結果、多くのシイ林が伐採され、アカマツなどの二次林に変わっています。ここのシイ林は、人の手がほとんど入っておらず、広島周辺の自然な植生をそのまま残している、数少ない例のひとつです。
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