学芸員が普段の仕事の中で感じたことや、日々のこぼれ話、お気に入りの展示物などを紹介します。
「日本号」
2022.7.1
昨春に福岡から広島に越してきて、今春から文化財課に配属されました。大学では地質学を専攻していたため、埋蔵文化財と比べると扱う年代が大きく違うのですが、過去を解き明かすという点は共通していると思いますし、これまで自分が経験したことの、点と点がつながるような発見があると嬉しく思います。
以前、広島城を訪れた際に、広島と福岡のつながりを感じるものがありました。天下三名槍のひとつ「日本号」です。室町時代後期に作られたとされ、総長321.5㎝、刃長79.2㎝もある大身鎗です。
黒田家の家臣のひとり
JR博多駅や
文化財課学芸員 相原 秀子
(注1)福岡市中央区にある光雲神社は、黒田官兵衛孝高公と、その息子で初代福岡藩主の黒田長政公がまつられています。日本さくら名所100選のひとつにもなっており、おすすめです。
(注2)飲食店や家庭で飾られる博多人形。以前は新築祝いなどで贈られることも多かったそうです。
(注3)基本展示室(有料)で展示されています。サイエンスショーで演示があることもあります。
写真中: 黒田武士の博多人形(個人蔵)
写真右: 黒田武士ロボット
「ツバメと人びと」
2022.6.29
今年は、久しぶりに家にツバメがやってきました。エサをもらう時以外はくちばしが見えるかどうかの大きさでしたが(写真左)、いつの間にか親鳥より大きくなっており、狭そうな巣を見た翌日にはもう巣立っていて、ふっくらしたヒナが電線に止まって親鳥からエサをもらっていました(写真右)。巣にヒナがいたのは2週間ほどでしたが、来年も無事に来てくれることを願っています。
ツバメは、春に東南アジアなどから飛来する渡り鳥です。害虫を食べるので昔から益鳥として大切にされており、『竹取物語』や『万葉集』にも登場します。稲を食べる害鳥のスズメと対比されることが多い印象でしたが、中国・前漢の百科全書『淮南子(えなんじ)』や『万葉集』では、春に来るツバメは冬に来る水鳥である雁(がん)と対比して取り上げられていました。水鳥といえば、古墳時代には水鳥形埴輪が作られており、中には雁をモデルにした埴輪もあったと考えられます。一方、ツバメについては近世の絵画や着物の模様などの例はありますが、古代の遺物は今回調べた限りは国内では見つけられませんでした。
直接の影響があるかはわかりませんが、中国・前漢の歴史書『史記』に「燕雀安知鴻鵠之志哉(燕雀(えんじゃく)安(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや)」という記述があり、燕雀(ツバメやスズメ)が狭量な人物、鴻鵠(白鳥などの大型の鳥)が傑物に例えられています。権力者にとっては、陸・海・空にまたがって生活し身体も大きい水鳥の方が魅力的なモチーフだったのかもしれません。
文化財課主事 兼森帆乃加
画像:写真左: ツバメの巣(6月9日撮影)
写真中: 成長したヒナ(6月15日撮影)
写真右:
巣立ったヒナ(6月15日撮影)